「想像と創造の狭間で」

柵の中の庭

僕の話を聞いてくれる?

誰にも話さずに、秘密にしてほしい。

とても恥ずかしい話だからね。

僕自身の沽券にかかわるというか、人間性が問われるような問題だから。

君がそんなにおしゃべりじゃないという前提で話を続けるね。

 

実をいうと、僕はあることがとても怖いんだ。

お化けが怖いとか、高いところが怖いとか、そんな一般的なものじゃない。

 

誤解したり、早とちりしないようにして聞いてほしい。

 

僕はね、科学が怖いんだ。

 

進歩した今の科学。

それがもたらしているであろう、陰に潜む悪魔のような副作用が。

 

それこそ、ありきたりな感覚だって?

確かに自然破壊や、人間にも様々な悪い影響を与えている科学が、現代にもはびこり、問題となっていることは知っているよ。

それに巻き込まれ、身を持って被害を受けている人間が多々いることも知っている。

そういう人たちには、科学は、恐ろしいもので、百害あって一利なし、なんてふうに顕著に思えるかもしれない。

 

これも怖さの一部として、説明できるものだ。

だけど、僕が言っているのは。

僕が怖いと言っているのは、まったく別のものなんだ。

 

現実の科学が怖いのではない。

いい表現が見つからないけど、言い方を探せば、これは妄想だ。

妄想の科学が怖いのだ。

 

これだけでは、どういうことかわからないと思う。

君は、こんなことを考えたことがある?

 

空は人間が作ったものだ。

 

プラネタリウムの天井のように、球体の覆いを作り、それに「空」という映像を浮かび上がらせている。

こう考えたことはない?

 

僕は、日常の中で、ふと空を見上げて、こんな妄想をしてしまったんだ。

空の映像が消えると、それらは、いくつものブロックをつなげた物体で、ネジか何かで固定されている。

その部品が摩耗して、壊れてしまう。

そうすると、ブロックが自重に耐えられなくなって、空から地面に落ちてくるんだ。

 

ゴトンとかボトッとかいう効果音を伴ってね。

 

空に開いた穴。

 

その穿った部分は薄暗く、角ばったダクトホースと、縦横に走るケーブルが覗いている。

落ちたブロックと繋がっていたケーブルは、引きちぎられたように垂れ下がっているんだ。

そうして、時折、火花を散らしている。

 

それが、とても暗澹としていて、現実を突き付けられたように、僕を恐怖に陥れるんだ。

 

目に見える情景。

空も海も木も土も。

すべてのものが人間が作ったものなのではないか。

そう、考えが飛躍してしまう。

 

木の枝を折ったら、黒と赤の導線がごっそりと零れ落ちるのではないか。

コンクリートの下には、複雑な回路が構成されているのではないか。

この世界に住む子供は、そんな中で、何も知らず、生かされているのではないか。

 

そんな思考が、とても怖い。

 

常に監視されているようで。

知らないうちに洗脳されているようで。

 

だって、この世界は、人間が作ったものではないと、誰が証明できる?

この物語はフィクションです。 実在の人物、地名、団体などとは関係がありません。

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